物損事故の対処方法は、人身損害を検討する必要が無い以外は、基本的に人身事故の場合と同じです。
もっとも、まったく人身損害の発生していない物損事故の場合(人身損害は発生しているが、物損事故として届け出されている交通事故も含みます。)、捜査機関で作成される刑事記録の内容が簡素化される傾向にあり、また、物損事故特有の損害の考え方も有るため、この点を意識する必要があります。
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物損事故の刑事記録と証拠の収集方法について
人身事故の場合、通常は、事故現場や被害者、加害車両の位置関係、当事者の事故発生直前までの行動内容等を記載した刑事記録(実況見分調書等といいます)が作成され、重傷事故案件や死亡事故案件の場合には、供述調書等、詳細な刑事記録が作成されます。
被害者の方は、後日、これらの刑事記録を入手して、交通事故の過失割合を検討することが可能となります。
他方、人身損害を伴っていない物損事故の場合、メモ書きと言っても過言でないほど簡素な資料(物件事故報告書)しか作られず、この物件事故報告書の内容だけでは、過失割合を検討することがままならないことが良くあります。
そのため、ドライブレコーダーの動画データが保存されている場合は、早期に収集、保管しておきたいところです。
ご自身の自動車等にドライブレコーダーが取り付けられていなくても、相手方の車両に取り付けられているケールもあるでしょうから、この場合、相手方ないしその自動車保険会社にドライブレコーダーの動画データの提供を求めるべきです。
その他、自動車の衝突箇所や持ち物や衣服の損傷状況についても、写真を撮り証拠として保管しておいた方が良いです。また、事故発生状況についても、記憶の新鮮な内に、メモ書きなどで結構ですので、記録しておくことをお勧めいたします。
物的損害の費目について
一般的に以下の損害費目について請求の適否を検討していきます。
① 車両損害(車両の時価〔全損〕、または修理費用〔分損〕のいずれか安価な金額)
適切な修理費用を請求できます。通常は、被害車両を自動車ディーラーや修理工場に持ち込み、修理の見積をしてもらってから、相手方の自動車保険会社のアジャスターと呼ばれる専門担当者が修理工場と交渉を行い、修理範囲の合意がなされ、修理費用が確定します(これを“分損”といいます。)。
重要なこととしまして、修理費用が被害車両の時価を超えている場合は、原則的に、当該被害車両は“全損”として取り扱い、必要となる修理費用ではなく、車両の時価分を請求することとなります。
そのため、被害車両に大きな愛着があったとしても、修理費用が車両の時価を超える場合は、修理費用分の賠償請求が出来ないこととなっています。
もっとも、全損扱いとなる場合、後述の買替費用を請求できる余地があります。しかしながら、当事務所での相談内容からすると、被害者の方に、相手方の自動車保険会社の方から率先して「買替費用も支払います。」と提案されることはあまりない印象です。
そのため、全損扱いの場合は、被害者の方から、気兼ねなく車両の時価、プラス買替費用について、相手方の自動車保険会社にご質問及びご請求していただければと思います。
② 評価損
評価損とは、通常の必要とされる修理が行われたものの、修理後の事故車両の価値が、事故前の車両の価値より低くなることについての損害です。
一般的に、裁判手続上、バンパー等の部品を交換した場合や板金塗装を行った場合は評価損の発生は認められず、修理を行ったものの完全な回復が出来ない場合や自動車のフレーム等、車両の本質的構造部分を損傷してしまった場合に、認められる傾向にあります。
また、車両を購入してからそれほど時間が経過していない状況での事故の場合や希少性のある輸入車の場合において、評価損の支払いが認められる傾向にあります。
評価損の認定の仕方については、修理費用を基準として一定の割合(10~35%)の評価損を認めるものから、時価を基準として一定割合を認めるもの等ケースバイケースですが、裁判例を見る限り、希少性のある高額な輸入車に関して、高めの評価損が認定されている傾向がみられます。
示談交渉においても、この評価損を認めてくれるケースがありますものの、裁判例よりも、評価損の金額は安価になる傾向があります。また、どちらかというと、ハードルの高い賠償請求に分類されるかと思いますので、代理人弁護士を通じて、請求する方が無難です。
③ 代車費用
被害車両の修理に必要な期間、ないし買替に必要な期間の台車費用が認められます。
もっとも、代車費用が高額になることを嫌ってか、相手方の自動車保険会社が、本来必要な期間よりもはるかに短い期間しか代車費用を認めてくれないという相談をよく受けます。私の印象では、物損事故の場合、この代車費用の負担に関して、紛争となり、被害者の方がご苦労されているケースが散見されていますので、注意が必要です。
この場合、粘り強く交渉をしていただくか、出来れば、事故直後から、交通事故の処理に慣れた弁護士に交渉をご依頼される方が無難です。
その他、相手方の自動車保険会社の方で、代車を準備してもらったり、被害車両よりも安価な代車を利用することを条件に、こちらの希望する期間の代車費用を負担してもらえるよう交渉するのも良いと思います。
④ レッカー費用
事故車を修理工場などへ運搬するのに必要となったレッカー費用です。
⑤ 事故車の保管料
相当な保管料を請求できます(相場より高額な保管料は請求困難です。)。
⑥ 車両買替費用
全損の場合のみ請求できます。買替の見積書に記載のあるすべて費用について請求できるものでは無く、買い替えたために発生する費用(自動車取得税や登録の際必要となる費用)のみ請求可能です。
自動車を所有していれば、通常必要となる費用(毎年支払わなくてはならない自動車税、自賠責保険料など。)は請求できません。
⑦ 廃車費用
相当な廃車費用を請求できます。
⑧ 休車損害
運送会社の車両やタクシー等、業務に用いる車両が事故により、業務に利用できなくなった結果生じる営業上の損害を休車損害といいます。
この休車損害は、日常業務に利用している車両が事故で損壊し、修理が必要となれば、必ず賠償請求が認めてもらえるもというものではなく、事故によって、実際に利益の減収が発生していることを立証しなくてはなりません。
そのため、代替車両が存在する場合は認めてもらえない傾向にあります。
また、個人事業主の方で、日常、業務車両を1台のみ使用されている方の場合は、確定申告書を売り上げに関する資料として利用しますが、車両を複数台使用されている運送会社さんのような場合は、必要となる資料が膨大になり、賠償請求の労力がとても大きくなりますので、出来れば代理人弁護士に事件処理をご依頼されるべきと考えます。
⑨ 衣服、ヘルメット、カバン等の損害
事故により痛んだ衣服、ヘルメット、カバン、携帯電話などの損害について請求が可能です。
各物品の痛んだ状態を立証するために、処分前に必ず写真撮影をしておきます。また、出来れば、物損の示談が成立するまでは、処分せずに保管してもらう方が無難です。
⑩ 弁護士費用・遅延損害金
一般的には、訴訟手続きにおいて、全損害額の1割相当額の弁護士費用、及び事故発生日から、支払日までの遅延損害金を請求できます。
他方、示談交渉では、弁護士費用・遅延損害金の支払いは認めてもらえないのが通常です。
損害賠償請求の方法について
通常、相手方の自動車保険会社との示談交渉によって、物損事故の賠償請求を行います。
もっとも、事故態様に大きな争いが有る場合や休車損害等、損害額について争いがある場合は、訴訟手続ないし調停手続での解決を図ります。
過失割合について
過失割合の考え方については、人身損害事故と同様です。
弁護士費用補償特約のご利用について
物損事故に関する大まかお話は以上ですが、損害額が人身損害事故に比較して低額になる傾向がありますものの、事故態様等に関して大きな争いが生じ、訴訟手続きでの解決が必要になる場合があります。
この場合、一般人の方が、訴訟手続きを行うのは手続きの専門性や労力の点から現実的ではありませんので、弁護士への事件処理のご依頼を検討される方が無難です。
もっとも、物損事故の場合、前述したとおり、損害賠償請求額自体がそれほど高額ではないため、残念ながら弁護士費用倒れになる可能性があります。
そのため、出来る限り、事前に自動車保険(任意保険)に弁護士費用補償特約を負担していただき、予見できない交通事故の発生に備えていただくことをお勧めいたします。