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はじめに
交通事故の被害に遭われた場合、加害者の契約している自動車保険から、被害者の方自身がご契約されている自動車保険、また、社会保険である健康保険や労災保険など、様々な保険制度の利用が考えられます。
以下、被害者の方がご利用可能な各種自動車保険について、ご説明させていただきます。
相手方の自動車保険に関して
任意保険(対人賠償保険・対物賠償保険)について
一般的に、交通事故の被害に遭われた場合に、真っ先に利用を検討していくのは、この相手方(加害者)の契約する任意保険になってくるかと思います。
任意保険は、最近では、補償額が無制限の対人賠償保険と、無制限ないし一定額を補償する対物賠償保険を中心として、これに後述の人身傷害補償特約等、各種特約が付帯された内容で設計されており、人身損害に限っては、後述の自賠責保険で補償されない上乗せ部分を補償する保険となっています。
任意保険は、後述の自賠責保険よりも補償額が大きく、また、利用出来る事故の範囲が広い上、治療費を直接、入通院先の医療機関に支払ってくれたり(これを“一括対応”といいます。)、また、任意保険会社の担当者が、相手方本人に代わって、対応をしてくれるなど、便利な面もあります。
もっとも、被害者の方の過失割合が大きいと考えられる場合、一括対応自体を断られたり、また、任意保険会社の担当者の中には、高圧的な対応や失礼な言動によって、被害者の方に不快感を与える方がおられます。
また、本来請求できる費用や後遺障害について、適切に説明しないため、被害者の方が、理不尽な程、低額な補償しか受けることが出来ていない事例が散見されています。
そのため、任意保険会社の担当者が高圧的な態度を取ったり、失礼な言動のために、被害者の方自身やそのご家族が不快な思いをされている時はもちろん、仮に任意保険会社の担当者が親切であったとしても、一度は、交通事故の処理に慣れた弁護士にご相談されておく方が無難です。
また、任意保険は、後述の自賠責保険と異なり、被害者の方に過失割合が有る場合、その過失割合分に相当する損害額の補償が受けられませんので、自賠責保険で補償されない損害額は、後述の被害者の方ご自身が利用可能な人身傷害補償特約からの補償を検討していくことになります。
自賠責保険について
自賠責保険とは、簡単にご説明しますと、自動車など車両による人身事故の被害者を救済するために作られた、一定額を限度として補填する損害保険です。
人身事故の被害者を救済するための保険ですので、怪我や死亡の結果が無い限り、例えば、車両だけが壊れたような物損事故の場合は利用できません。
また、被害者救済のために、自動車所有者などに契約が義務付けれた保険ですので、未契約の場合は、刑事罰が科されたりする事となっています。
さらに、任意保険と異なり、被害者の方の過失割合が70%未満であれば、支払われる保険金は減額されませんので、その点で任意保険に比べて、被害者の方に有利な内容となっています。
しかしながら、自賠責保険は、任意保険と異なって、保険会社の示談代行サービスがなく、さらに、治療費を相手方の保険会社が支払ってくれる一括対応をしてくれません。
そのため、被害者の方が、治療費をいったん支払った後、自賠責保険に対して、必要となった治療費分のお金を請求するか、または、事前に賠償金(保険金)の一部を請求することが必要となり(仮渡金といいます。)、手続的にやや面倒です。
その上、治療費・慰謝料・休業損害等の補償額の限度額(支払限度額)が120万円と低く、後遺障害が認められた場合にも、等級ごとの補償額が決められています。
そのため、通常、自賠責保険だけでは、裁判基準での賠償額の一部しか補償されないため、最終的に相手方の任意保険会社に対して、自賠責保険での補償額を超えた部分(上乗せ部分)の賠償金を請求するのが一般的です。
自賠責保険は、このような制度設計となっていますので、最低限度を補償してもらうための自動車保険であり、通常は、相手方の任意保険会社に対して、治療費の支払いや休業損害金の補償を求めていくという理解で宜しいかと考えます。
なお、任意保険会社は、被害者の方のために支払った治療費などのお金について、後日、自賠責保険に対して、支払い請求を行っていくという流れになります。
被害者の方自身の自動車保険に関して
人身傷害補償特約について
人身傷害補償保険(特約)とは、自動車事故で被保険者が被った怪我による損害を、被保険者の過失の有無に関係なく保険金額の範囲内で保障する保険です。
この人身傷害補償保険は、平成10年頃生まれ、その後の普及していった保険商品ですが、現在の自動車保険におきましては、標準のプランでは付帯されていることが大半だと思われます。
ご利用できる範囲は、記名被保険者、及びその配偶者、同居の親族、別居の未婚の子で、ご契約されている車両、歩行中や自転車運転中の対自動車(バイク)事故の場合、ご利用が可能です。
もっとも、人身傷害補償保険の適用される事故内容は、損害保険会社ごとに異なっていることがあり、他の自動車に搭乗中の交通事故や、バイクを運転中の事故は対象外になっていたり、ご契約されている車両以外の交通事故は対象外となっているケースもありますので、自動車保険(任意保険)をご契約の際には、人身傷害補償特約がどのような交通事故でご利用できるかをご契約前にご確認しておいてももらった方が良いです(契約後、契約内容〔補償内容〕を変更することも可能と思われます。)。
この人身傷害補償保険は、被害者の過失の有無、程度の関係なく利用できることに特色があり、自損事故でも利用可能な車両保険の人身事故版であると理解してもらって結構かと思います。
そのため、相手方の任意保険において、被害者の方の過失割合部分として、補償を受けられない損害額について、この人身傷害補償特約で補償を受けられる可能性があります。また、相手方車両が無保険車である場合や、逃げてしまった場合にもご利用可能です。
人身傷害補償保険で保障される範囲は、当該保険の規定に基づいた実損の填補となりますが、いわゆる被害者の代理人弁護士が請求する裁判基準よりも低額になってしまうのが通常です。もっとも、相手方に請求する手間が無く、迅速に保険金を支払ってもらえることから、利便性の高い保険といえるでしょう。
相手方の自賠責保険に請求可能であるとか、前述の無保険車傷害補償保険に請求できる場合に、人身傷害補償保険へ請求すべきか否か、請求するとしていつ請求すべきかにつきましては、メリット・デメリットを検討する必要があります。出来れば、交通事故処理に慣れた弁護士に事前にご相談されることをお勧めいたします。
無保険車傷害補償特約について
無保険車傷害保険(特約)とは、保険契約の無い自動車(バイク)事故の被害に遭い、死亡ないし後遺障害が残存した場合に利用できる保険で、交通事故の被害に遭われた方自身またはそのご家族の契約している自動車保険(任意)に付帯されている特約(オプション)のことをいいます。
ここでいう無保険とは、
- 任意保険と自賠責保険の両方が利用できない場合
- 自賠責保険のみ利用できる場合
- 任意保険の限度額を超える損害が発生している場合
- 加害者にひき逃げされた場合
などを意味します。
この無保険車傷害保険は、ご契約されている自動車の運転中、または搭乗中の交通事故以外にも、記名被保険者とその配偶者、同居の親族、別居の未婚の子が歩行中や自転車(バイク)運転中に、自動車(バイク)の関係する交通事故の被害に遭い、死亡ないし後遺障害が残存した場合にご利用を検討できます。
そのため、この無保険車傷害保険の利用できる範囲は比較的広いですので、まずは、無保険車傷害保険のご利用を検討していただくことになります。
保険金請求できる範囲は、実際に発生した損害(実損)が基準となりますので、弁護士に事件処理をご依頼された場合は、裁判基準での請求が可能となります。
なお、無保険車傷害保険に請求できる金額は、加害者に請求できる賠償額が基準となりますので、被害者の方に過失がある場合は、過失相殺により減額されることになります。
他方、後述の人身傷害補償保険(特約)の場合は、被害者の方の過失に有無に関係なく、保険金が支払われますので、この点で大きなメリットがあり、人身傷害補償保険への請求も検討することになります。
その他、無保険車傷害保険は、死亡事故ないし後遺障害が残存する事故が対象となっていますので、お怪我はしたものの後遺障害が残存しない交通事故の場合は後述の人身傷害補償保険への請求を検討しまう。
もっとも、この人身傷害補償保険は、裁判基準ではなく、人身傷害補償保険自体の規定に基づき賠償額の計算となりますので、それぞれの事案ごとにメリットとデメリットを総合的に考えながら、無保険車傷害保険、ないし人身傷害補償保険への請求の順序等を検討していくことになります。
搭乗者傷害補償特約について
ご契約されている車両を運転中または搭乗中に、交通事故によって、お怪我や死亡の結果が発生してしまった場合に利用可能な定額払いの保険です。
後述の自損事故傷害補償特約と異なり、自損事故以外にも利用可能です。
この搭乗者傷害補償特約は、被害者の方の実損を填補する趣旨の保険金ではありませんので、相手方に賠償請求する、しないに限らず、ご契約されている自動車保険会社から受領できる場合は、受領していただいてよいと思います。
自損事故傷害補償特約について
ご契約されている車両を運転中、自損事故を起こしてしまい、お怪我や死亡の結果が発生してしまった場合に利用可能な定額払いの保険です。
もっとも、前述の人身傷害補償特約が付帯されている場合は、この自損事故補償特約は付帯されていないことが多いと思われます。
車両保険について
ご契約されている車両の損害を、過失の有無にかかわらず、補償してくれる保険です。
車両保険は、自動車事故以外に、盗難や、火災、台風・竜巻・洪水・高潮などの自然災害から、落書き・いたずら、飛来物の落下、自損事故、当て逃げまで、幅広く保証してくれるものから、その内、単独事故と当て逃げを補償の対象外とした低コストの車両保険があります。
相手方のいる自動車事故の場合は、被害者の方に一定の過失割合があり、相手方の車両の修理費用の一部を負担しなくてはならない場合等に利用を検討していただくこととなります。
この車両保険は、通常、上記の人身傷害補償特約など各種特約と異なり、利用した場合、自動車保険の等級がダウンし、翌年度の保険料が増えることになります。
弁護士費用補償特約
弁護士費用補償特約とは、交通事故発生時に、300万円を上限として、弁護士費用を支払ってもらえる保険です。
この弁護士費用補償特約は、以下のとおり、ご利用できる範囲が広く、また、特約によっては、自動車の関係する交通事故以外の事故(例えば、自転車同士の事故、エステ中の事故など)にもご利用できるものがあります。
保険料は、1ヶ月辺り200円程度で、弁護士費用補償特約が複数ある場合、賠償額が高額化するような交通事故の場合、複数の特約を同時に利用することも可能です。
なお、この特約から支払われる弁護士費用は、日本弁護士連合会と各損保会社さんが取り決めたリーガルアクセスセンター基準(LAC基準)または、損保会社さん独自の基準により算出された弁護士費用が支払われることになっています。
弁護士費用補償特約を是非利用しましょう!
弁護士費用補償特約は、これを利用しても、対人(対物)賠償保険を利用した場合等と異なり、翌年度の保険等級が下がり、保険料が増えるということが通常有りません。
そのため、交通事故の被害に遭われた場合は、積極的にご利用されることをお勧めいたします。
弁護士費用補償特約をご利用できる方
記名被保険者、その配偶者、同居の親族、別居の未婚の子です。
そのため、広くご利用が可能です。もし、事故の被害に遭われましたら、ご本人様が自動車保険に加入していなかったとしても、ご同居されている方が自動車保険契約をお持ちの場合、是非お調べいただければと思います。
また、一人暮らしをされていたとしても未婚の場合で、ご実家に自動車やバイクがあり、いずれかの自動車保険に弁護士費用補償特約が有れば、利用できると思います。
この弁護士費用補償特約のご利用できる範囲に関しまして、保険代理店の担当者さん自身が良く理解されていないことが有ります。
そのため、交通事故の処理に慣れた弁護士に、弁護士費用補償特約が利用できるかどうかご相談されても良いかと思います。
弁護士費用補償特約をご利用できる交通事故について
弁護士費用補償特約が利用できる交通事故は、一般的に、ご契約されている車両以外での、歩行中や自転車運転中の自動車(バイク)事故でもご利用できます。
他方、バイク運転中の事故の場合は、ファミリーバイク特約が付帯されているか否か、また、バイクのエンジン排気量によっても、利用の可否が異なりますので、自動車保険会社さんへの問合せが必須となります。
※この点に関しまして、自動車保険の弁護士費用補償特約が、バイク事故に利用出来かったことを知らないまま、ご契約されている方がおられます。
ご契約の際には、是非、弁護士費用補償特約や人身傷害補償特約のご利用できる範囲をご確認いただければと思います。
まとめ
以上、被害者の方のご利用可能な各種保険について、ご説明させていただきましたが、実際に交通事故に遭われた場合は、保険証券をお手元に準備し、交通事故の処理に慣れた弁護士へのご相談、または、ご契約先の損害保険会社さんにお問い合わせ頂くことをお勧め致します。