交通事故と死亡との因果関係について

因果関係とは

因果関係とは、「あれなければこれなし。」という関係の事を意味しますが、加害者に対する損害賠償請求を行う上で必要となる条件ですが、公平の見地より、損害賠償請求上の因果関係は、その範囲が限定されています。

例えば、追突事故によりむち打ち症の怪我をした被害者の方が、クリニックへの通院途中、路地裏から飛び出してきた犬に驚き、尻餅をついて、臀部打撲の受傷をしたような事案で考えてみます。

むち打ち症自体は、交通事故によって受傷していますので、むち打ち症の治療費の支出による損害は、通常、交通事故と因果関係があると判断されます。

他方、犬に驚いて尻餅をついてしまい臀部打撲のお怪我をしたことはいかがでしょう。そもそも、交通事故が無ければ、クリニックへ通院する必要が無かったのですから、交通事故の加害者に対して、臀部打撲の治療費も請求できるような気もします。

しかしながら、このような場合、損害賠償実務上は、“相当因果関係”(通常、その不法行為〔交通事故〕からその損害が発生するのが通常と評価できる関係。)が認められる支出(損害)のみ、加害者に請求出来ることとしています。

上記の例の場合、一般的には、犬が飛び出してくること自体は、交通事故とは関係の無い偶然の出来事と考えられますので、臀部打撲の治療費の支出は交通事故から通常発生する損害とは考えられず、相当因果関係は無いものと取り扱われることとなります。

交通事故と死亡との因果関係について

交通事故において、被害者の方が死亡された場合、通常は、上記の相当因果関係が問題となるケースは比較的少ないと考えられます。

もっとも、後述のケースでは、相当因果関係が問題となることが有ります。

因果関係が問題となる事案について

事故発生直後、別の交通事故により死亡の結果が発生したようなケース

例えば、普通乗用車を運転していたところ、自動二輪車と接触し、対向車線側に転倒させてしまい、その後、自動二輪車の運転者が、対向車線を走行してきたトラックに轢かれ、死亡されたようなケースが考えられます。

このようなケースの場合、対向車線側から、トラックなど車両が走行してきて、被害者が接触受傷するのは通常あり得ることですので、先行する事故と被害者の死亡との結果の間には、相当因果関係が認められるという関係になります。

事故発生後、救急搬送先の医療機関において、医療ミスがあり、死亡の結果が発生した場合

通常、医療機関において、医療ミスが発生することは考えづらいですので、医療ミスによる被害者の死亡の結果と交通事故との相当因果関係は否定されるような気もします。

しかしながら、数が少ないものの、過去の裁判例では、このようなケースの場合、異時の不法行為が有ったということで相当因果関係を認め、医療ミスによる被害者の死亡と交通事故との間に、相当因果関係があるものと判断しています。

このようなケースの場合、被害者のご遺族は、交通事故の加害者に対して、死亡の結果を含め損害賠償請求することも可能ですし、医療ミスを発生させた医療機関に対しても、死亡の結果についての損害賠償請求が可能です。

但し、交通事故の加害者、医療機関のそれぞれから全額の賠償金を受領することは出来ず、被害者の方、及びご親族の損害の合計額を上限として、当該上限額に達するまで、異時の共同不法行為者として、交通事故の加害者、及び医療機関から賠償金を受領することとなります。

事故による受傷の治療として、入院治療中、高齢者のため、体力の低下が著しく、受傷内容とは別の傷病で死亡したようなケース

例えば、交通事故により被害者が、大腿骨骨折のお怪我を負ったため、入院治療を受けていたところ、被害者が高齢者のため、体力低下が著しく、肺炎を発症させ死亡に至ったケースなどが考えられます。

このようなケースの場合、通常の成人の場合ですと、大腿骨骨折など重症の骨折の場合におきましても、死亡に至るケースはそれ程ないと考えられます。

他方、高齢者が被害者の場合、骨折がきっかけとなり、長期臥床(長期の寝たきり)から体力低下(廃用症候群)が続き、嚥下障害から誤嚥性肺炎を発症させ死亡に至るなど、受傷内容が直接の死因とならないケースが考えられます。

このようなケースの場合、加害者側の自賠責保険や任意保険会社が、交通事故と被害者の死亡の結果との因果関係に疑問を投げかけてくることは多いと思われます。

そのため、治療経過中のカルテの分析や主治医に対して、受傷内容と体力低下~死亡原因との関係についての意見を求める等、被害者請求前や示談交渉前の立証活動には注意が必要となります。

もし、このようなケースでお悩みの場合は、なるべく早期に交通事故の処理に精通した弁護士にご相談されることをお勧め致します。

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