自動車保険(任意保険)の契約状況は、インターネットのとある情報によりますと、70数%程度との事です。
また、当事務所での相談内容からしますと、5%程度の方が自動車保険(任意保険)無保険の加害者の被害に遭われているようで、中には、自賠責保険も契約期間切れという完全な無保険車であるという困った事案も見受けられます。
(なお、自賠責保険の有効期間が切れている自動車を運転すると、刑事罰として、1年以下の懲役、または50万円以下の罰金刑が科される可能性があり、行政罰として、違反点数6点、一発免停になる可能性があります。)
無保険車との交通事故は是が非でも避けたいものですが、これを予期して避けることは不可能でしょうから、ご自身の自動車保険でご準備していただくことが必要となります。以下の記事をご参考ください。
このページの目次
人身損害(人身事故)について
無保険車傷害補償保険(特約)への請求
無保険車傷害保険(特約)とは、保険契約の無い自動車(バイク)事故の被害に遭い、死亡ないし後遺障害が残存した場合に利用できる保険で、交通事故の被害に遭われた方自身またはそのご家族の契約している自動車保険(任意)に付帯されている特約(オプション)のことをいいます。
ここでいう無保険とは、
- 任意保険と自賠責保険の両方が利用できない場合
- 自賠責保険のみ利用できる場合
- 任意保険の限度額を超える損害が発生している場合
- 加害者にひき逃げされた場合
などを意味します。
この無保険車傷害保険は、ご契約されている自動車の運転中、または搭乗中の交通事故以外にも、記名被保険者とその配偶者、同居の親族、別居の未婚の子が歩行中や自転車(バイク)運転中に、自動車(バイク)の関係する交通事故の被害に遭い、死亡ないし後遺障害が残存した場合にご利用を検討できます。
そのため、この無保険車傷害保険の利用できる範囲は比較的広いですので、まずは、無保険車傷害保険のご利用を検討していただくことになります。
保険金請求できる範囲は、実際に発生した損害(実損)が基準となりますので、弁護士に事件処理をご依頼された場合は、裁判基準での請求が可能となります。
なお、無保険車傷害保険に請求できる金額は、加害者に請求できる賠償額が基準となりますので、被害者の方に過失がある場合は、過失相殺により減額されることになります。
他方、後述の人身傷害補償保険(特約)の場合は、被害者の方の過失に有無に関係なく、保険金が支払われますので、この点で大きなメリットがあり、人身傷害補償保険への請求も検討することになります。
その他、無保険車傷害保険は、死亡事故ないし後遺障害が残存する事故が対象となっていますので、お怪我はしたものの後遺障害が残存しない交通事故の場合は後述の人身傷害補償保険への請求を検討しまう。
もっとも、この人身傷害補償保険は、裁判基準ではなく、人身傷害補償保険自体の規定に基づき賠償額の計算となりますので、それぞれの事案ごとにメリットとデメリットを総合的に考えながら、無保険車傷害保険、ないし人身傷害補償保険への請求の順序等を検討していくことになります。
人身傷害補償保険(特約)への請求
人身傷害補償保険(特約)とは、自動車事故で被保険者が被った怪我による損害を、被保険者の過失の有無に関係なく保険金額の範囲内で保障する保険です。
この人身傷害補償保険は、平成10年頃生まれ、その後の普及していった保険商品ですが、現在の自動車保険におきましては、標準のプランでは付帯されていることが大半だと思われます。
ご利用できる範囲は、記名被保険者、及びその配偶者、同居の親族、別居の未婚の子で、ご契約されている車両、歩行中や自転車運転中の対自動車(バイク)事故の場合、ご利用が可能です。
もっとも、人身傷害補償保険の適用される事故内容は、損害保険会社ごとに異なっていることがあり、他の自動車に搭乗中の交通事故や、バイクを運転中の事故は対象外になっていたり、ご契約されている車両以外の交通事故は対象外となっているケースもありますので、自動車保険(任意保険)をご契約の際には、人身傷害補償特約がどのような交通事故でご利用できるかをご契約前にご確認しておいてももらった方が良いです(契約後、契約内容〔補償内容〕を変更することも可能と思われます。)。
この人身傷害補償保険は、被害者の過失の有無、程度の関係なく利用できることに特色があり、自損事故でも利用可能な車両保険の人身事故版であると理解してもらって結構かと思います。
そのため、相手方車両が無保険車である場合や、逃げてしまった場合にもご利用可能です。
人身傷害補償保険で保障される範囲は、当該保険の規定に基づいた実損の填補となりますが、いわゆる被害者の代理人弁護士が請求する裁判基準よりも低額になってしまうのが通常です。もっとも、相手方に請求する手間が無く、迅速に保険金を支払ってもらえることから、利便性の高い保険といえるでしょう。
相手方の自賠責保険に請求可能であるとか、前述の無保険車傷害補償保険に請求できる場合に、人身傷害補償保険へ請求すべきか否か、請求するとしていつ請求すべきかにつきましては、メリット・デメリットを検討する必要があります。
出来れば、交通事故処理に慣れた弁護士に事前にご相談されることをお勧めいたします。
政府保障事業の利用
政府保障事業とは、交通事故の加害者が不明な場合、いわゆる“ひき逃げ”事故の場合や、加害者が無保険の場合の場合に利用できる制度です。
この政府保障事業は、自賠責保険を補完する趣旨の制度ですから、保障の内容は、自賠責保険と同様で、また、手続きから支払いがされまで相当な時間が必要となります。そのため、前述の無保険車傷害補償特約や人身傷害補償特約が利用できない場合の手段と理解してもらって結構かと考えます。
政府保障事業への請求先窓口は、各損害保険株式会社が担当しています。
その他は、当該制度は、被害者保護のものですから、加害者が被害者に治療費を支払ったとしても、自賠責保険と異なり、政府保障事業に請求することは出来ません。また、人身損害に対する救済の制度ですので、物損については、残念ながらご利用できません。
加害者本人への請求に関して
事故を発生させた加害者本人に賠償請求したいというのが、通常のお考えになるかと思います。
もっとも、加害者本人に、高額化しやすい人身損害を賠償できるだけの資産がない場合は、事実上、賠償金の獲得は困難となり、裁判で勝訴判決を得たとしても、回収不能の結果は変わらないと思います。
仮に、加害者本人に賠償できるだけの資力があったとしても、通常は、賠償金を獲得するまでに大きな労力と時間が必要とされますので、無保険事故の場合は、前述の無保険車傷害保険、または人身傷害補償保険のご利用を検討していただくことがベターと考えます。
なお、無保険車傷害保険や人身傷害補償保険をご利用された後は、これらの保険金を支払った自動車保険会社が、加害者側に対して、支払い済みの保険金請求額の支払いを求めていきます(この手続きを保険代位といいます。)。また、政府保障事業の場合も同様です。
物的損害(物損事故)について
加害車両が無保険の場合、物的損害については、残念ながら、ご利用可能な保険は、車両保険のみとなります。
もっとも、物的損害の場合、人身損害と比較して、低額なことが多いので、加害者本人との交渉で解決できる余地はあります。