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はじめに
通常は、交通事故で被害に遭われた方ご自身が、慰謝料や休業損害金等について、加害者または加害者の保険会社に対して、損害賠償請求を行います。
もっとも、死亡事故の場合、被害者の方ご自身がお亡くなりになられますが、法律上は、被害者の方ご自身が有していた損害賠償請求権が相続されることになります。
そのため、死亡事故の場合、基本的に相続人が損害賠償請求出来るという理解で結構です。以下、具体的なご説明をさせていただきます。
具体的な請求権者について
被害者の方が交通事故で取得した損害賠償請求権に関して
被害者の方が遺言書を残されている場合
相続は、被相続人の意思を尊重するという趣旨から、被相続人が遺言書を残されている場合、その遺言書の内容に従って、遺産(相続分)は分割されるのが基本です。
そして、遺言書の中で、交通事故の損害賠償請求権の相続分が指定されている場合があれば、相続人間で、遺言書の内容と異なった遺産分割協議をしない限り、遺言書に記載された内容に従って、交通事故の損害賠償請求権を相続した方が、賠償請求をしていくことになります。
もっとも、預貯金や貸金返還請求権と異なり、損害賠償請求権の相続が遺言書の中で指定されているケースは少ないと思われますので、通常は、次の法定相続分に従って請求権者が確定されます。
被害者の方が遺言書を残されていない場合
法定相続人とそれぞれの相続分について
民法上、被害者の方(以下「被相続人」といいます。)の配偶者(妻または夫)は、原則的に法定相続人となります。そして、
被相続人の子→直系尊属(父母または祖父母)→兄弟姉妹
という順で、配偶者と共に法定相続人となりますが、各自の法定相続分は次のとおり、法定相続人の組み合わせによって異なってきます。
- 子(第1順位) :配偶者 = 1/2:1/2
- 直系尊属(第2順位):配偶者 = 1/3:2/3
- 兄弟姉妹(第3順位):配偶者 = 1/4:3/4
- 基本的な考え方としまして、被相続人に子がいる場合、第2順位の直系尊属、及び第3準備の兄弟姉妹の相続分はありません。第1順位→第2順位→第3順位という順で、相続できる権利が移っていくという考え方となります。
子、直系尊属、兄弟姉妹が複数人の場合は、上記の相続分を頭数で割ることになります。例えば、子が2人の場合で配偶者がおられる場合、子の相続分は1/2となります。そして、この相続分1/2を頭数の2で割ることになりますので、子1人の相続分は1/4となります。配偶者がおられない場合は、子2人だけで分けることになりますので、子の相続分は、それぞれ1/2となります。 - 子、直系尊属、兄弟姉妹がおられない場合の配偶者の法定相続分は100%になります。
- 代襲相続について
法定相続分の中で、重要な考え方として、相続開始時に本来の相続人がお亡くなりになられている場合、例えば、祖父が亡くなり、法定相続人として、長男、次男の二人兄弟が考えられるものの、長男さんはその子供二人(被相続人の祖父から見て孫)を残して、既に他界されている場合は、この長男さんの子供二人が、長男さんの相続分を相続することとなります。これを代襲相続と呼びます。
法定相続分に伴う請求権者について
死亡事故の損害賠償請求は、遺言書での指定が無ければ、被害者の方(被相続人)の持っていた損害賠償請求権について、法定相続人が相続し、被相続人に代わって、それぞれの法定相続分を請求していくという考え方となります。
なお、預貯金以外の損害賠償請求権などの金銭の支払いを求める権利(“金銭債権”といいます。)は、法律上、遺産分割協議を経ることなく、当然に法定相続分に応じて、分割されるというように考えられています。
もっとも、相続人が全員で、一部の相続人のみが被相続人の損害賠償請求権を相続するという合意(遺産分割協議)をした場合は、その一部の相続人が、被相続人に代わって請求を行うことになります。
被害者の近親者固有の慰謝料請求について
以上のご説明は、被害者の方(被相続人)自身の損害賠償請求権に関してのものでしたが、被害者の方の両親や子供、兄弟など、近しい関係にある親族の方(“近親者”といいます。)は、被害者の方が死亡事故の被害に遭った場合には、言い表すことのできない程の強い悲しみや苦痛を受けるのが普通です。
そのため、被害者の方の近親者は、近親者ご自身の精神的苦痛を慰藉するための金員(慰謝料)を請求することが、損害賠償実務上、認められています。
この近親者は、法定相続分の認められる方の範囲と重なるときもありますが、必ずしもその範囲と一致しないため、どちらかというと法定相続分の認められる方よりも広い範囲になると思われます。
まとめ
以上のとおり、死亡事故におきまして損害賠償請求できる方は、基本的に相続人となりますが、被害者の方の近親者は、近親者固有の慰謝料を請求すること可能です。
相続のごく基本的な事項について分かりやすくご説明させていただいたつもりですが、上記に書ききれていない事項や相続関係が複雑なケースもある上、遺言書が残されている場合には、相続の内容や手続の進め方についても検討が必要となります。
そのため、確実性を期すためにも、親族の方のどなたでも結構ですので、一度、交通事故の処理に慣れた弁護士にご相談されておくことをお勧め致します。