私は、交通事故の被害者なのですが、加害者の自動車保険会社から、私の健康保険を利用して治療するよう連絡を受けています。被害者であるはずの私がなぜ、健康保険を利用しないといけないのか釈然としません。
被害者側の過失が考えられる(過失相殺の可能性がある)場合は、健康保険を利用しての治療(保険診療)をお勧め致します。
交通事故の被害者の立場にある場合、加害者の自動車保険会社から、交通事故のお怪我の治療に関して健康保険の利用(保険診療)を求められる時が良くあり、そのような場合、“なぜ自分自身の健康保険を利用しないといけないのか?”と釈然としないお気持ちになられることはごもっともだと思います。また、稀に、医療機関の窓口の方から交通事故には健康保険は利用できないのでは?とのことを言われるようなこともあるようです。
しかしながら、まず、被害者の方の過失を考える必要のない交通事故の場合、例えば、a)信号待ちをしていた際の追突事故や、b)相手方車両の明らかなセンターラインオーバーによる衝突事故、c)青色信号表示に従っての横断歩道歩行中の車両との交通事故の場合は、被害者の方の過失は0となり、加害者の自動車保険会社が被害者の方の治療費の全てを支払う義務がありますので、このような交通事故の場合、健康保険を利用しなくても、一般的には被害者の方のご心配はいらないと思います。
他方、被害者の方の過失が多少なりもと考えられる場合には、治療費の支払いを加害者の自動車保険会社が担当してくれていた場合には(この対応を“一括対応”といいます。)、後日の示談交渉の際、加害者の自動車保険会社が支払った治療費の内、被害者の方の過失割合分に相当する金額は、慰謝料などから控除されることとなります。そして、ここで注意が必要な事は、①健康保険を利用しない治療の場合は、“自由診療といって、通常、健康保険を利用した場合よりも治療費が2~3倍程度に高額化する取り扱いとなっており(※後述②の保険診療の場合、治療費の1点が10円ですが、①自由診療の場合、1点が20~30円となります。)、その高額化した治療費について、被害者の方は、ご自身の過失割合分を後日の示談交渉の際に、控除されることとなります。その結果、受領できる示談金が少なくなります。
他方、②健康保険を利用する“保険診療”の場合、通常の自己負担の3割部分の治療費について、被害者の方はご自身の過失割合分を負担することとなりますので、①の自由診療の場合と比較して、被害者の方の治療費のご負担は小さくなります。
具体例を示しますと次のとおりとなります。
・過失割合 被害者:加害者=20:80と仮定。
・必要となった治療の合計点数:50,000点
①自由診療の場合(※1点=20円と仮定)
・治療費:50,000点×20円=1,000,000円
・被害者の負担部分:1,000,000円×20%=200,000円
②保険診療の場合
・治療費:50,000点×10円=500,000円
・被害者の負担部分:500,000円×30%(自己負担分)×20%(過失割合分)
=30,000円
- 比較
- ①自由診療の場合のご負担額:200,000円
- ②保険診療の場合のご負担額: 30,000円
→①の場合は、②の場合と比較して、170,000円多く示談金から控除を受けることとなり、受領できる示談金はその分、少なくなります。
自由診療と②保険診療での被害者の方がご負担しなくてはならない治療費について具体例を挙げ比較をしましたが、このような理由から、被害者の方の過失が考えられる場合は、②保険診療をご利用される方が無難だと考えます。
この点、①自由診療の場合は、②保険診療にない治療方法が期待できるというご意見やリハビリ治療の期間で①の方が有利であるというご意見もあります。
しかしながら、当職が医療機関の担当者様にお聞きした限りでは、①自由診療と②保険診療とで、一般的に医療倫理上の問題もあり、治療方法が異なってくることはないと伺っております。また、②保険診療にしたため、実際に困った事態に陥ったようなお話も聞いたことがありません。
以上の理由から、被害者の方の過失が考えられる交通事故の場合は、②保険診療をご利用されることをお勧めさせて頂いております。
もっとも、ご自身やご家族の交通事故において、被害者の方ご自身の過失の有無を判断することは難しいケースが良くありますので、出来る限り、交通事故発生後なるべく早い時期に、交通事故の処理に精通した弁護士にご相談いただくことをお勧め致します。
※なお、被害者の方の過失が0の事案であっても、常に全ての治療費を加害者の自動車保険会社が支払ってくれるという訳では無く、自動車保険会社が交通事故とお怪我の因果関係を否定してくるような場合や一般的な治療方法として過剰・濃厚で必要性が疑われる治療内容については、支払いを拒絶してくるようなケースもあるので注意が必要です。